ハラスメント相談担当者向け コラム④
1次相談での難しいケース 対応例

2022年3月3日

令和2年6月パワーハラスメント関連の法制化を受け、企業でもハラスメント相談を受ける機会が増えているのではないかと思います。相談対応が適切でないと、相談した人もストレスを抱え続け、相談担当者も問題が積み上げられていき、皆がどんどん辛くなってしまいます。このコラムでは、相談担当者の視点で、ハラスメント相談対応を軸に、職場環境が良いものになるための準備、工夫等についてお伝えします。

 第4回(最終回)は、相談担当者の心構えとスキルについて、1次相談の際、難しいケースの対応例について説明いたします。


①相談者の体調が悪い様子がある、ずっと涙ぐんでいる、震えている

健康を回復してから問題解決をする 

相談行為というのは、一般的に心理的な負荷がかかるものです。思い出して話をすることで、さらに体調を崩してしまうリスクがある場合の対応例は以下のとおりです。

A)心配な様子がある(一見して具合が悪そう、涙目で話せない、震えてしまっているetc.) 

【対応例】
体調や精神的につらいことはないか、心配な様子があると伝え、「もしよかったら、産業保健等に相談してから、再度相談の機会を設定しましょうか」と持ち掛ける。その際、休職に追い込むのか、この問題をうやむやにするのかという心配があったら、延期してもきちんと相談を受けることを伝え、不安を減らしてもらう。どうしてもヒアリングをして欲しいと言う希望があれば、本人同意の上続行しても良いが、辛そうな場合はこちらからストップをかけさせてもらうこと、また、辛いときは途中で申し出ることを約束してから始める。

B) 体調を崩している、受診している等の話がある

【対応例】
主治医へはどのように話しているか、診断が出ているか、仕事ができる状態なのか、丁寧に聞く。もし、延期すべき状況であれば、①‐Aと同様に説明する。ハラスメント要因で具合が悪くなったという申し出に関しては、「事実関係確認を経てしかるべき措置をとるが、まずは健康回復を優先してほしい」と話す。 


②相談者が混乱している、話がまとまっていない、途中から話せなくなる

基本は傾聴、複数回にわけてヒアリングをすることも一考だが、専門家へ確認すべきケースも 

混乱している場合、話せなくなる場合は、「今日は〇〇まで教えていただいたので、次回は△△についてお話いただけますか」等の説明をし、複数回にわけても構わないので、ゆっくり話を聞くことが原則となります。ただし、相談機関は無限に時間を使えるわけではないので、過剰な回数や時間の要求があったときは、ルール(例えば、初回相談は原則50分)に従って対応していると説明してください。以下は、相談担当者が専門家のアドバイスをもらうべきケースです。 

A)会話が成立しない、精神的に不安定な様子(強い恐怖心がある、目がうつろetc.)が見られる  

【対応例】
「お辛そうですね、大丈夫ですか?」と声をかけられる状況であれば、相手の反応を見て、産業保健の利用等、①‐Aと同様の説明をする。その話も通じない強い混乱がある様子であれば、少し話を聞いた後、なるべく早めに切り上げ、「こちらで次の進め方に関して早急にご連絡します。何かあればいつでも連絡してください。」と伝え、産業医等の専門家へ対応を相談する。  

B) 被害の訴えに妄想の疑いがある(通常想定できない行為、多数の人が自分を監視している等の話が出るetc.) 

【対応例】
稀に話の規模が大きい被害の訴えがある。例えば、1日10万通非難のメールが来た、東京駅の全員が自分を監視し悪口を言っている等。そういう話が出た際は「被害妄想ですよね」とは言わず、また、話を深く掘ったり、矛盾を厳しく追及したりすることはせず、「いつ頃からそう思われたのですか?」「ご体調辛くないですか?」等の返しで、できる範囲で記録をとり、産業医等に対応を相談する。  


③相談担当(機関)を信用しない、報復が怖く話したくない、外部へ訴える等の主張がある

ルール説明を徹底する、即時回答できないものは確認して対応する 

相談担当(機関に)不信感がある、相談することが広まる、報復が怖いので話したくない等の不安に対する対応は、相談対応のルール説明を徹底し、既に法令化されている不利益取扱の禁止をはじめ、全ての関係者の秘密保持等について十分説明し、納得してもらった上で、相談対応をする。都度違う返答をすると、相談担当(機関)の信用を失うことになるので、必ず、ルール決めしておき、一定の対応をすること。相談者によっては、録音や動画を取らせて欲しいという要求もあるが、それも社内ルールに従って運用する。また、外部へ相談している、訴える予定がある、労災申請をした等の話が出た際は、一旦話を預かり、社内法務担当等に対応を相談する。 


まとめ

個別のケースによって、対応はそれぞれ違ってくるのですが、以下のように整理できると思っています。

■    健康回復を優先する、ゆっくり話を聞く、ルールをきちんと説明する、が原則

■    原則では対応が難しい場合は専門家(産業医、社内法務、外部弁護士・社会保険労務士等)へ相談

難しいケースで大切なことは、1次相談の担当者が全て一人で抱えてしまわず、適切な連携をすることです。
その際は指針にあるように、相談者のプライバシーの保護を忘れないようにしましょう。

ここまで全4回のコラムはいかがだったでしょうか。皆さんの業務の参考になれば幸いです。

ご一読いただき、ありがとうございました。 

筆者紹介

熊井HRサポート社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士・日本産業保健法学会会員
公益財団法人 21世紀職業財団ハラスメント防止コンサルタント

熊井 弘子 Hiroko Kumai

略歴:

主に企業の依頼に応じて、第三者機関調査として、各地でハラスメント等の事実確認を実施。防止/相談対応/事後措置、派生するメンタルヘルスの問題への対処、中立的な第三者機関の紛争解決案の提供を主業務としている特定社会保険労務士。開業前は、複数企業(日系・外資系)の人事部におり、採用、給与、システム、評価、制度等に加え、ハラスメント関連と衛生管理者としての事業内産業保健スタッフ等業務(衛生委員会、休職復職フォロー、メンタルヘルス等)の業務も長く担当。実務経験をベースに、最新の情報を更新しながら、働く人、それを支える人事部門のスタッフを含むすべての方の就業環境を充実させるサポート機関を目指しています。