ハラスメント相談担当者向け コラム ③
相談担当者の心構えとスキル(2)

2021年11月5日

令和2年6月パワーハラスメント関連の法制化を受け、企業でもハラスメント相談を受ける機会が増えているのではないかと思います。相談対応が適切でないと、相談した人もストレスを抱え続け、相談担当者も問題が積み上げられていき、皆がどんどん辛くなってしまいます。
このコラムでは、相談担当者の視点で、ハラスメント相談対応を軸に、職場環境が良いものになるための準備、工夫等についてお伝えします。 第3回は、相談担当者の心構えとスキルについて、一次相談の際、ポイントとなる各項目の詳細を説明いたします。

相談担当者に求められる心構えとスキル(前回のおさらい)

話を聞く、受け止め、秘密を守り、解決へつなげる役割としての【傾聴】

まずは、傾聴の訓練を受ける

相談に来た人の話に耳を傾ける、これを具体的なスキルとしてどう実践していくか。

まずは、ハラスメント相談担当者養成機関等、役割は違いますが、キャリアカウンセラー養成機関等でも構いませんので、ロールプレイを含んだ傾聴訓練を受け、基礎作りをすることをお勧めします。

実際、こういうトレーニングに参加し、逐語録を取り、他者からのフィードバックを受けると、驚くほど聞くことができていない自分を発見するはずです。

そこからの学びを得た上で、ハラスメント一次相談を担当する際に必要な傾聴姿勢等は次項の通りです。

一次相談時の傾聴姿勢 ‐受容する、その場の評価や過度な共感は避ける‐

①開始時に安全確保がされていることと、ルール(秘密保持や虚偽証言禁止等)、自分の役割は公正中立であることを明確に伝えることで、話しやすい雰囲気を整える

②どんなことに困っているか、話したいこと(起きたこと、解決の希望、心配なこと等)を話してもらい、その場で評価をせず、まずは受け入れる

③その上で、事実関係を確認するための項目(厚生労働省マニュアルP72チェックリスト・P73相談記録票等を参考に、事業所で確認すべき事項を定めておく) に触れることは必要だが、話をさえぎって問いただすことに終始せず、設定時間の中で、少し話を進めた後、振り返って確認することも試してみる

④過度な共感(オーバーアクションで一緒に怒る等)やオウム返しは多用しない*、一般的なカウンセリングよりも受容に重きを置いた方が良い

*相談者の怒りや悲しみを増長させるリスクがある
詳細は難しいケースの回で説明するが、ごくまれに精神疾患等の症状として妄想被害を話す人もいることも想定し、感情を強める応答を避ける

⑤終了前に、言い忘れたことや心配なこと、全体へのコメント等、自由に話してもらう時間をとる
(開始40分頃から、新事実や重要な背景等の説明が話されること、とても多いです!)

⑥50分程度で終了させるが、話が終わらない、本人がうまく話せない、体調が悪そうな場合は、無理に進めず、別の日時を設定する、或いは、他によく事情を知る人を推薦してもらう等、無理にこの場で完結させず、複数の機会を設ける可能性も持っておく

体調を崩していると申し出があった場合、或いは、その様子が見られた際は、まず健康回復から

「皆さんに確認しておりますが、今日お話しいただくにあたって、健康状態は問題ありませんか**」と尋ねた際、返答によっては、産業保健の利用や主治医への相談を勧め、健康回復してから再度解決へ向けての相談を受けることが必要な場合もあります。

**相談担当者マニュアルにこのような共通の説明文を用意しておくことを推奨

一次相談の時点で、相談者が周囲には伝えにくかった体調の問題を聞くケースは少なくありません。
特に、事実の有無は確認できていない状況ではあるものの、ハラスメント的言動や、長時間労働の連続で心身に症状が出ている等の申し出があった場合は、「もしよろしければ、産業医の先生をご紹介しましょうか。その後、改めて問題解決のご相談を進めることでいかがですか。」等の慎重な対応が必要です。
相談者によっては「休職に追い込んで、ハラスメント相談をもみ消すつもりだ」という主張を受ける場合がありますが、健康回復が重要であることを丁寧に説明し、記録をとって、再相談実施の時期を待つという同意を得るようにしてください。

相談対応に慣れてくると、相談者や関係者の病名を決めつける方、時々お見掛けするので、あらためての注意ですが、こういった申し出を受けたり、相談時の印象等で、「あなたはうつ病だ」「あの人メンタルやばいよね」等、勝手に病名をつけたり、周囲に広めたりしてはいけません。「体調が心配であれば、医療機関で相談してはいかがですか」と勧め、同意を得た後に必要な情報だけを橋渡しする役割です。勘違いをなさらないように、十分注意してください。

健康を回復してから問題解決【産業保健·メンタルヘルス、関連法や連携先の確認】

連携先・制度概要も事前に確認しておく

適切な連携のために、事業所の産業保健スタッフは誰か、社外の連携先はどこか、就業規則や健康情報管理規定等も含め、関連事項を事前に確認しておきましょう。もし、相談者から健康回復のためにお休みすること、傷病休職をすること等への不安の話が出たら、それも受け止め、活用できる法や規定の制度があれば、導入部分を説明して、人事部門の担当者へ繋げることも、大切な役割の一つです。

相談者の困っていることをどう連携してよいか、判断が難しいケースも多いです。相談者の問題解決にあたっての連携先のみならず、相談担当者が相談できる連携先専門機関(ハラスメント専門ベンダー、この分野に強い産業医や社会保険労務士の事務所等)を持っておくことも強くお勧めいたします。

プライバシーの保護

相談担当者、上記の連携先等含め、必要な情報は限られた人への共有とし、プライバシーの保護を忘れないようにしましょう。

次回は、一次相談において、難しいケースの対応例を説明いたします。

筆者紹介

熊井HRサポート社会保険労務士事務所 代表

特定社会保険労務士・日本産業保健法学会会員

公益財団法人 21世紀職業財団ハラスメント防止コンサルタント

熊井 弘子 Hiroko Kumai

略歴

主に企業の依頼に応じて、第三者機関調査として、各地でハラスメント等の事実確認を実施。防止/相談対応/事後措置、派生するメンタルヘルスの問題への対処、中立的な第三者機関の紛争解決案の提供を主業務としている特定社会保険労務士。開業前は、複数企業(日系・外資系)の人事部におり、採用、給与、システム、評価、制度等に加え、ハラスメント関連と衛生管理者としての事業内産業保健スタッフ等業務(衛生委員会、休職復職フォロー、メンタルヘルス等)の業務も長く担当。実務経験をベースに、最新の情報を更新しながら、働く人、それを支える人事部門のスタッフを含むすべての方の就業環境を充実させるサポート機関を目指しています。