「森の魔女」がいざなう組織の未来

2021年9月22日

新卒以来、一貫して人と組織の領域にてキャリアを重ねてきました。 様々な専門知識や経験知がモノを言う部分も多分にあると思う一方で、大事なことに気づくきっかけは案外身近なところにある のではないか、と考えています。
本コラムではそう考えるに至ったひとつの出来事を振り返ってご紹介します。

小さいころから私は本を読むのが大好きでした。
小学校の読書の時間では終わりのチャイムに気づかないほど、集中して本を読んでいたそうです。
その中でも大好きだった本のひとつが、松谷みよ子さんの「モモちゃん」シリーズ。
モモちゃんと妹のアカネちゃん、そしてねこのプーの日常の物語です。

社会人になって間もない頃、書店の文庫コーナーでそんな懐かしのシリーズが偶然、目に飛び込んできたのです。
子供の頃にはなかった最終巻があることも知り、全巻購入して一気に読みました。
印象的なエピソードはたくさんありますが、中でもシリーズ3作目の『モモちゃんとアカネちゃん』の、モモちゃんのママのエピソードが妙に心に残りました。

絡まりあう「歩く木」と「育つ木」が示すもの

モモちゃんのママは、パパとの関係に疲れて森の魔女を訪ねます。
そこで魔女はモモちゃんのママに、2つの木が植えられた植木鉢を見せながらこう言います。
「おまえさんのご亭主は、歩く木なんだよ。そこをしっかりみなくちゃいけない」
「そうして、おまえさんはそだつ木なんだよ(…中略)歩く木とそだつ木が、ちいさな植木ばちの中で、根っこがからまりあって、どっちも枯れそうになるところへきているんだよ。(…中略)おまえさんは、やどり木にはなれない。だからしかたがないのさ」
この後、森の魔女は植木鉢から歩く木を抜いて分けてあげます。すると歩く木はみるみるうちに元気を取り戻してどんどん歩き始めていきます。


実はこのエピソード、著者である松谷みよ子さんが娘に頼まれて、自身の離婚をモチーフに書いたものだと最終巻の「あとがき」で知りました。
夫婦の話を植木鉢と2つの木になぞらえて、誰も否定せず、でも心の葛藤も交えた世界観を描いている、とても秀逸な物語だと心打たれたことをよく覚えています。

エピソードの再解釈

時は更にたち、この4月より転職した会社で組織開発を担当しています。
最近よく話題になる「組織開発」ですが、自分の中でははっきりとそれが何物かつかみきれていない感覚を持ったまま新しいミッションがスタートしていきました。
さて何から取り組もうか・・・そんなことを考えていた時にふとよぎったのが、前述の「モモちゃんとアカネちゃん」のエピソードでした。

元々は夫婦の話ではありますが、こんな風に捉えなおすと組織開発に通じるものがありそうです。

植木鉢から森林へ

再解釈のプロセスを通じて私は、組織開発を担うことは組織(企業)における「森の魔女」になることなのかもしれないと考えるようになりました。

パパ・ママそれぞれの木の特性・状態を見極め(現状の観察)、ママに現状を伝え(フィードバック)、時には植木鉢から歩く木であるパパを抜いて自由に歩かせる(改善アクションへの介入)。定期的に土を耕し、栄養の吸収を促すなども、魔女がとりうる行動として挙げられるのでしょう。

余談ですが、日本の長年の植林政策の影響により日本の森の60%以上を人工林が占め、さらにそのほとんどが針葉樹林(主にマツ・スギ・ヒノキ)なのだそうです。
針葉樹は本来、北海道以北の寒冷地に適した木とのこと。
それを日本各地に大量に植えた結果、土壌の変化により災害リスクが高まり、また副産物として花粉症を生み出すなど、思ってもみなかった悪影響の数々が生まれています。

同じ木の集合体でも植木鉢よりはるかに複雑な森林の世界。様々な要素が複雑に絡み合う中で今に至っているのではないかと想像します。
そう思うと、実は森林の方が現代の組織に近いとも言えそうです。

植木鉢から森林に視座を移した時、「森の魔女」としては何ができるでしょうか?
再度物語での魔女の言葉がよみがえります。

「おまえさんのご亭主は、歩く木なんだよ。そこをしっかりみなくちゃいけない」

いろいろな感情や先入観を脇に置き、観察して見極める。
どんなに複雑な環境下でも、ここが組織開発の一丁目一番地。それを忘れないことが「森の魔女」の心得なのかもしれません。

筆者紹介

日系化学メーカー  人事部

古鉄 昌子

略歴

大学卒業後コンサルティング会社にてキャリアをスタート。
コンサルタントとして様々な企業規模の人事プロジェクトに従事した後、当事者として人事に携わることで会社の変革に貢献したいと言う思いから企業人事として転職し、事業の成長を人と組織の側面から加速させるべく日本・グローバル双方の人事領域を幅広く手がける。
現在は化学メーカーのホールディングス人事として組織開発を中心に各種プロジェクトに携わる傍ら、第二の故郷である長野県への地域貢献に向けて準備中。