ハラスメント相談担当者向け コラム ①
「相談しても仕方ない」からの脱却 ‐相談体制の準備‐

2021年6月30日

令和2年6月パワーハラスメント関連の法制化を受け、企業でもハラスメント相談を受ける機会が増えているのではないかと思います。相談対応が適切でないと、相談した人もストレスを抱え続け、相談担当者も問題が積み上げられていき、皆がどんどん辛くなってしまいます。

このコラムでは、相談担当者の視点で、ハラスメント相談対応を軸に、職場環境が良いものになるための準備、工夫等についてお伝えします。今回は ①「相談しても仕方ない」からの脱却 として、安心して相談してもらえる、相談体制の準備について、お話ししたいと思います。

なぜ「相談しても仕方ない」と思われるか

皆さんの職場の相談窓口等は活用されていて、相談対応、事実確認、問題解決から再発防止まで適切に実施できているでしょうか。

「うちの会社は相談がないから、ハラスメントがない」と思っていても、実は、「相談はもみ消される」「そんなのハラスメントじゃないって言われる」「後で嫌がらせされる」「相談したのかと呼び出される」「それはあなたが悪いと決めつけられる」etc. そんなネガティブな声で敬遠されていることは少なくありません。
実際に第三者調査に伺うと、「相談しても仕方ないのでしませんでした」と言う声を聞くことがあります。

相談窓口が活用されない要素

プライバシー保護がされない

・不利益取扱がある

・よく聞かずに決めつけられる

私が実務を通じて、これがあるとうまくいかないな、と思う三要素を並べてみました。

2020年6月、相談等による不利益取扱の禁止が法制化されましたが、相談をしたことやその内容が広められてしまう、また、相談や協力をしたことで不利益な扱いがあるとなれば、誰も相談窓口を利用する気持ちにはならないでしょう。例えば、相談を契機に異動させられた、無視されるようになった等に至らなくても、「Aさん対応は気を付けた方がいいよ、すぐ相談窓口に通報するから」と広められる、「Bさん、相談窓口で何話したの?」と詰問される等があれば、何かあったら相談しようという雰囲気にはならないはずです。

決めつけもよくあるケースです。
初めて相談に来る際、心理的動揺が大きく、話が整理できていない方もいます。中には、ハラスメントかハラスメントじゃないかだけを聞きに来る方もいます。どのような話し方の人が来ても、まずは何があったか詳しく教えてほしいと持ち掛け、どんなことが起きたか、困っていることは何か、相談者の意向は何か、丁寧に確認していくことが必要です。初回相談時「それはハラスメントじゃないですね」「うちの会社ではよくあることだから」「それは言われた方も悪いんじゃないの」等の決めつけ応答を絶対にしてはいけません。

実は、役職が上の人、社会人経験が長く法令や労務の知識がある人ほど、陥りやすい初動ミスです。相談した人は、自分の話を聞いてもらえないと思ったら、二度と相談には来てくれなくなりますし、「相談窓口に言っても、聞いてもらえないよ」という評判が広まることは避けられないでしょう。

‐相談体制の準備- 相談しやすいルール決めをして、周知する

安心して相談してもらうためには、先程説明した3つの要素も含め、相談や問題解決がスムーズに進むルールを、就業規則やハラスメント防止規定等で定めておくことが重要です。

そのルール決めに加え、研修等での啓発、役員や直接雇用ではない人も含めた職場全体への広報、外部機関の活用、実際の相談や事実確認協力時の再確認、相談終了後も一定期間はヒアリング実施する等、相談時だけでない、フォロー体制についても整備しておくと良いでしょう。

気軽に相談できることが、職場の活性化につながる

相談がないことは一見良いことのように思います。
でも、本当は問題があるのに、相談窓口の有名無実化で埋もれてしまっていたら、職場に対してあきらめのような心境が生まれ、さらに問題が大きくなれば、早期離職等の要因にもなるはずです。

まずは、職場の活性化の基礎として、何かあれば安心して相談でき、早期に問題が解決できる体制を整えましょう。

厚生労働省の対策ツール·専門家の活用

自分の職場でどのような準備をするべきか確認したい場合は、以下の厚生労働省の対策マニュアル等を参照、あるいは、社会保険労務士やハラスメント解決専門ベンダー等にご相談されることも良いと思います。

関連指針等掲載

職場におけるハラスメント防止のために(厚生労働省)

マニュアル

職場におけるパワーハラスメント対策が 事業主の義務になりました!(厚生労働省R2.9)
<*参考>P.40相談・苦情への対応の流れの例

次回以降、相談担当者にどのような心構えや技術が必要か、難しいケースにはどのように対応したらよいか、等のコラムをお届けする予定ですので、よろしくお願いいたします。

筆者紹介

熊井HRサポート社会保険労務士事務所 代表

特定社会保険労務士・日本産業保健法学会会員

公益財団法人 21世紀職業財団ハラスメント防止コンサルタント

熊井 弘子 Hiroko Kumai

略歴

主に企業の依頼に応じて、第三者機関調査として、各地でハラスメント等の事実確認を実施。防止/相談対応/事後措置、派生するメンタルヘルスの問題への対処、中立的な第三者機関の紛争解決案の提供を主業務としている特定社会保険労務士。開業前は、複数企業(日系・外資系)の人事部におり、採用、給与、システム、評価、制度等に加え、ハラスメント関連と衛生管理者としての事業内産業保健スタッフ等業務(衛生委員会、休職復職フォロー、メンタルヘルス等)の業務も長く担当。実務経験をベースに、最新の情報を更新しながら、働く人、それを支える人事部門のスタッフを含むすべての方の就業環境を充実させるサポート機関を目指しています。