ポストコロナ・ウィズコロナにおけるテレワークを考える
〜テレワークガイドライン(2021.3 改定)を参考に〜

2021年5月19日

特定社会保険労務士の熊井弘子です。企業での人事経験の後、社労士として独立開業、ハラスメント防止・事後措置の実務、担当者への助言とともに、産業保健・メンタルヘルスが専門領域です。

自社の実態に合わせたテレワークの導入を進める上で、働く時間や場所を柔軟にできるメリットを活かしつつ、その反面、どう扱うのか迷うこと、コミュニケーションの問題等も生じているのではないでしょうか。今回のコラムでは、厚生労働省が2021年3月に改定したテレワークガイドラインを参考に、オフィスワークと同様に、テレワークでも、心身の健康を保ち、安全に働ける就業環境について考えてみたいと思います。

新しい生活様式に対応した「テレワークガイドライン」

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令和3(2021)年3月、厚生労働省が「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(通称: テレワークガイドライン)の改定をしました。これは、平成30(2018)年2月策定「情報通信技術を利用した事業場外勤務(テレワーク)の適切な導入及び実施のためのガイドライン」をポストコロナ・ウィズコロナにおける新たな日常、新しい生活様式に対応させるため、全面的に刷新したものです。

コロナ禍でのテレワークの急速な普及において、「これはどう扱うのだろう? 困っていることがないか?」等の疑問や気付きを放置せず、労使で十分な話し合いを実施し、就業規則等にルールを定めておくことが重要です。就業規則に定めるべき事項については、労働基準法第89条をご確認ください。このテレワークガイドラインでは、人材育成等も含め、かなり細かい項目に触れられています。

そして、メンタルヘルスという視点においても、改訂前に比べ、かなり具体的に記載されていますので、まずはその違いをみてみましょう。

テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html(案内ページ)
https://www.mhlw.go.jp/content/000759469.pdf (ガイドライン本文)
https://www.mhlw.go.jp/content/000759470.pdf (ガイドライン概要)

ガイドライン改定によりどのように変わったか

改定前では、「(4)労働安全衛生法の適用及び留意点」にて、メンタルヘルスに関わる項目が取り上げられていましたが、改定により新たに「自宅等でテレワークを行う際のメンタルヘルス対策の留意点」という項目がその中に追加されました。

参考にしたいポイント

改定後のガイドラインにおいて、特に参考にしたい箇所は以下3点です。

①自宅等でテレワークを行う際のメンタルヘルス対策の留意点

「8(2) 自宅等でテレワークを行う際のメンタルヘルス対策の留意点」に、上司等が労働者の心身の状況に気付きにくいことが指摘されています。テレワークに即した健康相談の整備に加え、普段のコミュニケーションについても留意する必要があるでしょう。

②導入に当たっての望ましい取組

「3.(4) 導入に当たっての望ましい取組」には、円滑なコミュニケーション促進について「職場と同様にコミュニケーションをとることができるソフトウエア導入等も考えられる」とありますが、そばにいる人に気軽に話しかけることで解消する日々の疑問や健康上の相談が、伝えられぬままどんどん溜まっていくことを防ぐ工夫が重要となります。

③長時間労働対策

長時間労働対策としては、「7(4) テレワークに特有の事象の取扱い」に、労働時間の管理についても、使用者の管理の程度が弱くなる問題、また、業務の指示・報告が時間帯にかかわらず行われる問題が挙げられています。中抜け時間の取り扱いには複数の方法があること、仕事と生活の時間が曖昧になることを防ぐために、メール送付の抑制やシステムへのアクセス制限をする等が提示されています。

テレワーク環境を整えることで、メンタルヘルスを保つ

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一般的に、日本のオフィスは整備されているところが多いです。自宅等のテレワーク環境が、オフィスと同じようにはなっていないことで、気分転換が難しかったり、苦しい姿勢が続いてしまったりと、メンタルヘルスの問題が生じないようにすることはもちろん、健康で安全に就業することが難しくならないように、工夫が必要です。「(別紙2)自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト【労働者用】R3.3.25版」には、作業環境についての確認項目が示されています。不十分な点があった場合は、労使で良く話し合い、改善を図ることが必要でしょう。

改善に必要な費用負担等についてもルール決めをして運用しますが、費用負担の課税等の扱いに関しては、国税庁の「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」も参考になさってください。

最後に

テレワークとオフィスワーク、手段としてデジタルが担う効率化と、目的を定め価値を創造するために人間がやること、自社の実態に合わせた組み合わせでNew Normalを作りだす良い機会とするために、そして、皆が健康で安全に働ける職場であるために、テレワークガイドライン、及び、巻末のチェックリスト(事業者用・労働者用)をぜひご活用ください。

参考資料

在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)令和3年1月15日|国税庁 (nta.go.jp)
(*4(2)「テレワークに関する費用負担の取扱い」関連)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0020012-080.pdf

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン |厚生労働省 (mhlw.go.jp)
(**7(2)「テレワークにおける労働時間の把握」関連)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html

テレワークにおけるセキュリティ確保|総務省(soumu.go.jp)
「テレワークセキュリティガイドライン」第5版 令和3年4月改定予定 <現在は平成30年4月第4版>

(***11「テレワークの際のセキュリティへの対応」関連)

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/telework/

筆者紹介

熊井HRサポート社会保険労務士事務所 代表

特定社会保険労務士・日本産業保健法学会会員

公益財団法人 21世紀職業財団ハラスメント防止コンサルタント

熊井 弘子 Hiroko Kumai

略歴

主に企業の依頼に応じて、第三者機関調査として、各地でハラスメント等の事実確認を実施。防止/相談対応/事後措置、派生するメンタルヘルスの問題への対処、中立的な第三者機関の紛争解決案の提供を主業務としている特定社会保険労務士。開業前は、複数企業(日系・外資系)の人事部におり、採用、給与、システム、評価、制度等に加え、ハラスメント関連と衛生管理者としての事業内産業保健スタッフ等業務(衛生委員会、休職復職フォロー、メンタルヘルス等)の業務も長く担当。実務経験をベースに、最新の情報を更新しながら、働く人、それを支える人事部門のスタッフを含むすべての方の就業環境を充実させるサポート機関を目指しています。