「 1on1 」の落とし穴②
リモート1on1がハラスメント問題に

2021年3月24日

 今回はオンラインの1on 1がきっかけでハラスメント問題に発展、メンタルダウンを引き起こしてしまった事例をご紹介します。メンタルヘルス予防の為、社員のパフォーマンス向上の為に取り入れたものがメンタルヘルスダウンを引き起こしてしまった、社員が離職してしまったなんて人事担当者としては最悪のシナリオ・・・

 見えづらいリスクを知り、自社で同様のことが起こらないようリスクマネジメントしてきましょう。

リモハラの実態

 ある日「オンラインでのパワーハラスメントの相談ってありますか・・・」と、弱々しい声でお電話をいただきました。

 リモハラ(リモートハラスメント)という言葉も耳にするようになりましたが、相談者の話を聞けば会社で1on1が導入され、週に1度オンラインで実施されているそうです。その1on1で、上司は画面上に一切顔を出さないのだとか。まだ入社して1年ということもあり、相談してよいものかも不安で悩まれていたそうです。

 「画面がオフになっているのもそうですが、上司に業務の報告をしても生返事ばかり。1on1のスケジューリングも突然されるため、抜き打ちチェックをされているような気分になります。全体ミーティングの時にはその上司もカメラをオンにしているし、声のトーンも違います。加えて、同僚に1on1の実施状況を聞いたら、同僚には顔を出していることがわかりました。私もカメラをオフにしていいのかと聞くと“いや、カメラはオンにして”と言われて、それ以上何も言えなくなってしまいました・・・。さらに、録画もされているようで、監視されているような気もしてきてしまいました。誰かに相談したいけれど、相談することで上司の対応が変わるのではないかと思えてしまい、怖くて相談ができなくなっていました」

 この方は、このことがきっかけで他のオンラインMTGにも不安を感じてしまい、プレッシャーに晒されて不眠に悩まされるようになり、仕事も休みがちになってしまいました。かといって入社から間もないこともあって転職をするわけにもいかず、悩んだ末に相談してくれたのです。

 そんなことが起こるのかと思われるかもしれません。ですが、上司と部下の2者が閉鎖空間でやりとりしているため、他者から見えないことに怖さが潜んでいます。そして、弱い立場の社員は、自分の意見を言うとその後会社に居づらくなるのではないかと不安に思います。リモート環境の中で相談相手も乏しく、一人で考え込んで追い詰められていくことがしばしばあります。

 そもそも、職場生活における強いストレス要因の第3位に対人関係があがっており(※1)、労働基準監督署に寄せられているハラスメントの相談件数は年々増加してる(※2)のが現状ということも知っておいてください。

※1 厚生労働省平成29年労働安全衛生調査(実態調査)労働者調査より

※2 厚生労働省平成30年労働安全衛生調査 個別労働紛争解決制度施行状態より

上司に任せきりにしない、組織で実施する1on1に

 人事担当者の方のお話を聞いていると人事評価をする上司と部下が1on1を実施している会社が多いようです。

 上司と部下の1on1が重要であることは理解できますが、評価権を持っている上司が相手だと、本音が話せない、緊張が高くなってしまうという社員も多いでしょう。上司がストレス要因になっている場合はマイナスの結果を生み出してしまうこともあります。

 1on1実施者に十分な教育を行うのはもちろんの事、実施者にメンターを起用する、実施者を定期的に変える、スケジュール管理も現場任せにせず組織で行うなどの工夫や、簡易でも良いので記録を残すなど、1on1のリスクも想定した柔軟な運用の検討が必要です。

画面に映ることもストレスになっている!?

 別の相談で、こんな声もありました。

 「オンラインMTG上で、苦手な先輩の顔がアップで映るだけで具合が悪くなります・・・」と。

 そんなこと言われても・・・と苦笑されたことでしょう。これがハラスメントということではありませんが、ここには大切なポイントがあるのです。

 画面に映らないことで相手に不安を与えることがある反面、画面に映ることでも相手にストレスを与えてしまうことがあるのです。

プロのカウンセラーが実践している映り方のコツ

 部下の事を想い熱心に聞こうとする方ほど、やってしまいがちなオンラインMTGならではのNGな映り方があります。

 相手の話を一生懸命聞こうと傾聴の姿勢をとるのは良いのですが、熱心に聞こうとしてモニターに顔を近づける、スピーカーに耳を近づけるという経験はありませんか?対面で話していて、お互いに物理的な距離を保った上で前のめりになることはある種効果的と言えますが、オンライン上では相手との距離が「画面との距離」になりますので、相手の表情を見よう、熱心に話を聞こう、として画面いっぱいに映った上司の顔は、部下にプレッシャーを与えてしまうことがあるのです。

 相手の話を聞き洩らさないよう一生懸命メモを取る方がいますが、これも対面のとき以上に注意が必要。視線が落ちがちなのは対面でも一緒ですが、オンラインでは手元で何をしているかが相手には見えません。話を聞いてもらえていない、と思われる可能性が高まります。カメラの位置も気にしましょう。相手の顔をしっかり見ているつもりが、相手の画面に映るのはあさっての方を向いた上司の顔ということも起こります。正面で目が合っているように映るかを確認してください。

 どれだけ一生懸命相手の話に耳を聴けていても、相手に与える印象は視覚からの情報は想像以上に大きいものです。些細なことのようですが、聞いてもらえている、わかってもらっていると相手に受け取ってもらうことは、安心感を与え、信頼を構築する大切なポイントです。

大げさなぐらいの表情が丁度いい

 ご自身がどんな表情で話しているか気にされたことがあるでしょうか?

 自分では柔和な表情で話を聴いているつもりでも、相手が受け取る印象と解離していることがあります。

 人間の五感の情報収集は、視覚が83%(※3)と言われています。オンラインでは対面より表情が読み取りにくいので、普段以上に意識的に目や口角などを動かしていきましょう。オンラインで対話が始まる前に、画面の映り方、自身の表情などを確認していきましょう。マスクをつけていたりすると、より表情が読み取りづらく、相手に不安を与えやすいですよね、日頃から意識的に表情を作る事や、ボディランゲージを取り入れていくことも効果的です。

※3 産業教育機器システム便覧(教育機器編集委員会編 日科技連出版社 1972)より

最後に

 今回はハラスメント相談に発展してしまった事例を紹介しましたが、日常的なカウンセリングや相談の習慣が定着していない日本では、私のような第三者に相談が来る頃には相談者が既にメンタルダウンや鬱症状を発症してしまっていて、手遅れになってしまうケースが圧倒的に多いのです。

 従来型のラインケアでは防ぎきれない、リモート環境が生み出している新たなリスクが生まれています。いかに新たなリスクに対して対応ができるか、メンタルダウン予備軍が増えている中、対処療法にならない仕組みづくりが今求められています。

筆者紹介

P&L Associates 合同会社 アドバイザー  精神保健福祉士

橋詰 牧

青山学院大学卒。20代は飲食店マネージャー。メンタルヘルス業界に関心を持ち2010年精神保健福祉士資格を取得。精神科、生活保護のケースワークを経て2012年より企業内カウンセラー、第一種衛生管理者として社員相談、メンタルヘルス研修講師、ストレスチェック、障がい者雇用のコンサルティングに携わる。大手通信会社に所属する傍ら、個人でもカウンセリング、コーチング等を行っている。